本を読むという行為は、すなわち文章を味わうことを意味します。

文章を味わう、とはどういうことか。
それは、ちょっとだけむずかしい言葉に言い換えれば、文体を味わうということです。
どのような単語が、どのような配列で、どのように書かれているか。
その文章のリズム、言葉の選びかたなどをつぶさに味わっていくこと、それがすなわち読書という行為なのです。

よく「どんな本を読んだの?」と聞かれて、物語について語りはじめる人がいますが、物語を読むことと文章を味わうことは根本的に異なる行為です。
だいいち、物語は、本だけが特権的に語ることを許されているわけではありません。
映画も漫画も音楽も、物語を語りうる表現方法であることには変わりありません。
そのなかから特定の表現方法のかたちを借りて物語を語るからには、なにかしらその表現方法でしか表現できない魅力を醸成しなくてはなりません。
映画なら映像、漫画なら絵、音楽なら音、というふうに。
それらの要素を味わわなければ、映画を観たり、漫画を読んだり、音楽を聴いたりしたしたことにはならないように、そこに書かれている文章を味わわなければ本を読んだことにはならないのです。

これは、けっしてわたしの個人的な意見ではありません。

文学が誕生してから、それにたずさわる人は、いかに魅力的で独創的な文章を書き綴るか、という命題に挑戦してきたのですから。

清少納言が「枕草子」で随筆というジャンルを生み出し、紀貫之が「土佐日記」で日記文学なるものを勃興させ、日本の近代文学史において、言文一致体、饒舌体などの新しい文体が確立されていったように。



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